ふくおか県酪農業協同組合

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参院選乗り切りも政権試練 9月首脳会談で市場開放迫られる
 参院選を与党の改選過半数確保で乗り切った安倍政権だが、先行きの視界は靄に包まれたままだ。選挙の命運を握った全国32の「一人区」は東北を中心に「安倍農政」不信の根強さを裏付けた。今秋には内閣改造、臨時国会もひかえる。9月下旬には再び日米首脳会談で、貿易交渉協議の一つの区切りを迎える。トランプ大統領から農畜産物で一層の市場開放を迫られることは間違いない。
乳製品で「TPP超え」懸念
 相次ぐ市場開放で輸入農畜産物の増大が目立つ。こうした中で、日米貿易協定交渉の行方も参院選の大きな争点になった。自由化拡大は国内生産基盤に打撃を与え、食料安全保障の根幹を揺るがす。持続可能な国内農業堅持へ強い交渉姿勢が問われる。
 新経済政策「アベノミクス」の3本目の矢、成長戦略の両輪は規制緩和と貿易自由化だ。実際、「安倍農政」6年半で市場開放は大きく進んだ。環太平洋連携協定(TPP)をはじめとしたメガ自由貿易協定(FTA)をてこに、これだけ貿易自由化を進めた政権は前例がない。
 現在、事務レベルの協議が進む日米貿易交渉は、決着次第で国内農業にとって大きな脅威となる。今後の与野党論戦でも、国産農畜産物の供給を大前提とした食料安全保障との絡みの中で、具体的な論議を深めるべきだ。
 安倍政権は「TPP以上」の譲歩は認めない方針だが、トランプ政権の強硬姿勢の前に先行きは不透明だ。例えば乳製品は、TPP枠とは別に米国枠を求めている。もし認めれば、「TPP超え」となりかねない。関係者からは「最終的には日米安保という軍事面と絡められ譲歩を迫られかねない」との懸念も上がる。歴史的にも、両国協議は米国の圧力に屈し理不尽な要求を受け入れてきたのが実態だ。
 日本農業を維持・発展する一番の手法は、自由化優先路線を転換し、食料主権を取り戻して輸入物に奪われた野菜など業務用需要の市場を国産に置き換えることだ。それが自給率の引き上げにもつながる。安倍政権の「市場開放は行う一方で、国内農業は守る」という相矛盾した政策は果たして可能なのか。
 安倍首相は、生産農業所得の増大などを挙げ農政改革の成果と繰り返す。だが「木を見て森を見ない」との批判も多い。これでは問題の本質を見失いかねない。背景には生産基盤の弱体化による供給力低下と、それに伴う価格上昇がある。基盤の実態を直視し、年次計画に基づき着実に回復していく施策こそ急ぐべきだ。現場視点の農業再生計画こそが問われる。
 農業専門紙の農政モニター意識調査で、「安倍農政」に否定的な理由の筆頭は「TPPなど貿易自由化」が5割を超え最も多い。さらに、「農協改革」「米の生産調整見直し」と続く。政府・与党は、TPP等関連政策大綱に基づく国内対策を進めるが、生産現場の不安は消えていないのが実態だ。「安倍農政」は今後の指針に強い・攻め・輸出の3点セットばかり強調するが、もう一つの道はないのか。
 5年に一度の食料・農業・農村基本計画見直し時期だけに、「安倍農政」の検証と、国連開発目標「SDGs」にも沿った持続可能な農業路線の議論深めるべきだ。そこには家族農業、中山間地もしっかり位置付け直さねばならない。  自民党は、農業者の大半を占める家族農業をあくまで地域政策に位置付けているが、規模拡大を目指す家族農業を産業政策として見直す必要がある。さらに、輸入農産物が増える中で、経営安定対策の拡充を急ぐ必要がある。
どう見る「安倍農政」6年半
 参院選は、「安倍農政」6年半の是非も大きな争点となった。規制緩和と自由化に大きく舵を切った。農業成長産業化を掲げたが、地域農業の地盤沈下は止まらず、大きな課題を残したままだ。
 参院選で改選されたのは2013年に当選した議員たちだ。再登板した安倍晋三首相の政権6年半とほぼ重なる。新経済政策である「アベノミクス」は何をもたらし、いったいこの間、「官邸農政」で何が起きたのか。検証する機会ともなった。選挙結果は忖度政治にも有権者の厳しい判定が下った。
 特に農業政策の是非は、与野党激突のとなる全国32にある「1人区」の投票結果に現れる。3年前の前回参院選の結果は自民党の21勝11敗となったが、特に東北を中心に「安倍農政」への厳しい評価が出たことを忘れてはならない。今年は与党に厳しい結果が出てきた12年に一度の「亥(い)年選挙」。12年前の07年は、「一人区」で自民党は6勝23敗、参院選全体でも37議席と大敗し、第1次安倍政権退陣の引き金となった。 今年は農政にとって節目の年だ。それは秋に集中する。今秋には日米貿易交渉が大きなヤマ場を迎え、5年に一度の食料・農業・農村政策基本計画見直し論議も本格化する。生産調整の抜本見直しから2年目。出来秋の米作柄によっては、米過剰問題が一挙に噴き出しかねない。改正畜産経営安定法は、生乳取引で一部酪農家の「いいとこ取り」が収まらない。指定生乳生産者団体の集荷率も徐々に低下しつつある。こうした傾向が進めば、用途別販売にも支障が出かねない。
 それにしても、「安倍農政」6年半、特に後半の3年は農政の重要な針路を議論すべき審議会軽視が進み、「政高党低」の官邸農政が農協改革を筆頭にさまざまな農政改革を断行してきた。背後には、現場実態を無視した規制改革推進会議の提言などが看過できない。しかも、これまでの農政改革の路線とは整合性のない唐突な改革を迫ったケースさえあった。自民党幹部で二階俊博幹事長となってから党の存在感が増したものの、引き続き官邸農政の軌道修正が問われる。
 「安倍農政」6年半で国内農業はどうなったのか。日本農業新聞がまとめた各指標はプラスとマイナスが半ばする。「本丸」の食料自給率は38パーセントと先進国最低水準にとどまる、担い手、農地といった食料自給力も弱体化に歯止めがかからない。
 安倍首相は、農業生産所得、若手新規就農者の増加、農林水産物・食品輸出の拡大を具体的事例に農政評価を強調する。問題は表面的な数字の内実だ。所得増をけん引した畜産や野菜の産出額は供給力低下に伴う価格上昇が大きい。つまりは生産基盤の弱体化が一時的に所得を押し上げている。農業の強さではなく、弱さこそ直視しべき課題だ。目標1兆円に向け輸出額が伸びているといっても、主力品目は水産物や加工品が圧倒的だ。農家所得とは直接関係ない。
 今回の参院選は「安倍農政」の功罪を問うものだ。それは、成長偏重の政策是正と、現場実態に即した地域農業を重視し、家族農業にも光を当てる農政リセットとも重なる「選択」だった。
基軸なきG20とトランプ台風
 大阪での20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)は、「大阪宣言」を採択し閉幕した。米中激突による「決裂」という事態は避けられた。だが実態は、各国の思惑が入り乱れる「同床異夢」の状況で、多国間協議復活の具体策にも欠けた。
 まずは日本への影響をどう見るか。G20と併せ行った日米首脳会談で、貿易協定交渉の加速化で一致した。7月以降、事務レベル協議を加速させて個別品目の交渉が具体化していく。議論本格化は参院選投開票後だが、安倍政権は難しいかじ取りを迫られる。
 日本は関税などで環太平洋連携協定(TPP)合意水準以上の譲歩はしない方針だが、牛肉輸出拡大をはじめ米国の圧力が一段と強まることは間違いない。米はTPPで米豪など国別枠があるが、乳製品は全体枠しかなく新たな輸入枠を主張していると見られる。米国は世界最大の酪農大国でチーズ生産時に発生するホエー(乳清)の在庫が膨らむ。ホエーはタンパク含有率によっては特定乳製品である脱脂粉乳の代替となり、国内の生乳需給の混乱要因に結び付く。
 主要先進国と米印など新興国が一堂に会すG20はもう必要ないのか。2008年の世界金融危機を回避するためオバマ米大統領(当時)の提唱で始まったが、呼び掛けた当の米国が自国第一主義に走る。こんな中での現在版「大坂夏の陣」との称された今回の大阪サミットは、利害対立が増す国際会議の難しさを改めて突き付けた。むしろ「会議は踊る。されど進まず」と議論ばかりで行動に欠けた200年前のウィーン会議さえ思い起こさせる。それは、戦後協調体制を形作った米国という大黒柱が抜け、基軸がなくなった世界情勢の反映でもあろう。
 それにしても、これだけ大物首脳が集まる中で、会議の変質に改めて驚く。首脳らは多国間協議よりも、バイの2国間協議をより重視した。これでは、首脳会議の宣言が、対立と決裂を避け、両論併記、玉虫色の内容となったのも無理はない。
 確かに、大阪サミットで世界中のメディアの注目を集め最大の焦点は米中首脳会議だったのは間違いない。両国の対立が決定的となれば、世界経済の下振れリスクは一段と高まる。日本をはじめ世界経済は、この2大経済大国に大きく依存しているからだ。2大陣営に経済体制が分かれる「米中デカップリング」という事態は避けねばならない。
 結果的に、両国の通商協議再開で合意し、米関税「第4弾」は回避した。しかし、一時休戦と見るべきだろう。中国からの対米貿易赤字が目に見える形で減らなければ、タリフマン(関税の男)を自称するトランプ大統領は報復関税を発動するだろう。むしろ、中国を米国監視の下に置いたと言ったがいい。
 今後の国際会議日程は見たい。8月24日からはフランス南西部のビアリッツでG7(主要7カ国・地域首脳会議)がある。ただ、世界全体の中で先進国の力は格段に落ち、保護貿易を巡り欧米の方針は異なったままだ。日本は8月28日から横浜でアフリカ開発会議(TICAD)を控える。今後人口が倍増する成長地域アフリカとの連携をどう強めるか。
 日米、米中協議で注目されるのは、9月下旬の国連総会と月予定のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議。ちょうど米大統領選まだ一年のタイミングと重なる。首脳が一堂に会す機会なだけに、日米首脳会談で安倍晋三首相が市場開放で決断を迫られる懸念がある。今後の貿易交渉に注意が必要だ。(次回「透視眼」は10月号)