ふくおか県酪農業協同組合

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時代の節目2025 昭和100年と酪農乳業 プラザ合意から40年
2025年(令和7)は、まさに時代の節目がいくつも重なる。まずは昭和100年で1世紀前に北海道酪農の礎が出来上がる。40年前には国際経済リセットの「プラザ合意」。ドル高是正と円高加速で農畜産物輸入が急増し日本農業は構造改革を迫られた。30年前にはWTO発足。10年前にはアベノミクス、官邸主導農政による「2015年体制」が出来上がる。そして今年2025年は「トランプ2・0」が始まる。
酪農危機を国民に訴える全国の酪農家ら
写真=酪農危機を国民に訴える全国の酪農家ら(2024年12月2日、東京・JR有楽町駅前で)
今年の重大テーマ
2025年が幕を開けた。メディア各紙・雑誌が「今年の予測」を示しているが、だれもまともに受け止めていないだろう。それほど、先は見えず予測不能の「想定外」が待ち受ける。ただ、国内外の情勢、それを踏まえた農政動向はある程度は読み取れる。今年の重大テーマを見よう。
◇今年の国内外・農政の重大テーマ
・高まる地政学リスク
・米中対立激化の余波
・気候変動・環境調和「みどり戦略」対応と食料安保
・少数与党下の政局と「トリプル選挙」
・基本計画と新酪肉近
・適正な価格形成新法と需給
・「令和の米騒動」と酪農危機
地政学リスクは、これまでになく高まるだろう。資源争奪と民族・宗教対立を伴い、結果的に原油と食料で不安定な局面が続く。原油は中東アラブでの地政学リスクが火種だ。特にシリア内紛の行方がどうなるのか。原油高騰は生産資材、肥料、農薬など農業にも重大試練を招く。地球の温暖化は気候変動を呼び、穀物国際需給の変動となる。輸入飼料価格の高止まりは収まりそうもない。
国内に目を転じれば、少数与党下で政局がいつ勃発するのか予断を許さない。まずは年明け1月24日とされる通常国会、特に3月の2025年度予算決定時の国会での政治情勢が焦点だ。7月には参院選と「第2国政選挙」と称される東京都議選。これに乾坤一擲、起死回生策として、満身創痍の石破自公政権が解散・総選挙をぶつける可能性も否定できない。そうなれば、衆参ダブルに都議選も合わせた「トリプル選挙」となる。
国内農業分野では、3月には改正食料・農業・農村基本法制下で初めての基本計画策定と今後10年先を見据えた新酪肉近を決定する。通常国会には適正なコストを反映した合理的価格形成に関する新法が提出される。「令和の米騒動」と呼ばれた24年のコメの小売価格高騰は今年も再燃するかもしれない。併せて指定団体の受託戸数1万戸割れの酪農危機が深刻だ。このテーマは、2月の次回「透視眼」で深掘りしたい。
時代の「分岐点」重なる
2025年から見た過去を振り返りたい。歴史の分岐点が多い。
・1925年(100年前)
元号が「大正」から「昭和」へ。北海道酪農振興へ北海道製酪組合設立(雪印メグミルクの前身)
・1945年(80年前)
第2時世界大戦終結、日本敗戦。国連発足、FAO設立。
・1955年(70年前)
日本、ガットへ加盟。自民党結党、自社2大政党の55年体制に。全中、全国農業会議所第1回通常総会、中央畜産会、日本酪農政治連盟設立。
・1975年(50年前)
第1次石油危機後の打開策探る初の先進国サミット(フランス・ランブイエ)。サイゴン陥落、ベトナム戦争終結。農政審、昭和60年(1985)「農産物需要生産長期見通し」で食料自給率75%明記。農林省が配合飼料供給安定基金設立。畜産物価格安定制度に豚肉、加工原料乳保証価格に加え、新たに牛肉を対象に。
・1985年(40年前)
日米首脳会談(中曽根康弘首相、レーガン大統領)、ソ連はゴルバチョフ書記長就任。ドル高是正へG5蔵相会合で「プラザ合意」。FAO世界1億5000万人で飢餓深刻と報告。日米経済摩擦激化の中で情報収集強化へ全中ワシントン事務所開設。ヤイター米通商代表、日本の残存輸入制限13品目(コメ、乳製品、牛肉など)で年内交渉を表明。
・1995年(30年前)
ガットを改組しWTO発足。世界貿易自由化体制を強化。FAO設立50周年で飢餓人口半減、農業生産強化など「ケベック宣言」。
・2015年(10年前)
TPP大筋合意、トランプ政権で米国は脱退したが、18年に米国以外のTPP11(イレブン)協定締結。「安倍一強」で安保関連法案をはじめ改革を強行し「2015年体制」とも称される。農業・農協も標的となる。反TPP運動を牽引した全中の農協法外しなど農協改革を断行。官邸主導農政による規制改革路線はのちの全農株式会社化、現行指定団体制度廃止の酪農制度改革につながる。酪農改革は生乳流通自由化を柱とした2018年に改正畜安法。需給調整機能の弱体化で現在に引き継ぐ課題を残す。
・2025年(今年)
1月トランプ大統領就任。米中対立激化、ウクライナ紛争、政権交代のシリア処理、北朝鮮対応など地政学リスクが増す。3月には食料安保再構築へ改正基本法に基づく基本計画、新酪肉近などを策定。
100年前と北海道の酪農組合
2025年は昭和100年と重なる。1世紀前の1925年は大正末期(大正14)と昭和元年が併存する。100年前は酪農・乳業分野でも今につながる大きな動きがあった。
当時、道内の乳業は練乳(コンデンスミルク)を製造する2大メーカー、極東煉乳と森永煉乳が存在感を増していた。現在の明治、森永だ。関東大震災後、海外からの食料物資受け入れなどの必要から無税となり、「練乳不況」が起きて受乳削減が相次ぎ、酪農家は困窮を強いられていた。そこで宇都宮仙太郎、黒沢酉蔵、佐藤善七らは酪農組合をつくり酪農家自ら乳製品加工に乗り出し苦境脱出を試みる。
メーカーの妨害を乗り越え、100年前の1925年5月17日に北海道製酪販売組合を設立、翌年には産業組合の形で北海道製酪販売組合連合会(酪連)となる。現在の雪印メグミルクの前身だ。デンマーク酪農を模範に生産現場実態を重視し土づくりの循環農法をめざす。これが雪印の規範である黒沢の箴言「健土健民」にもつながる。
40年前「プラザ合意」と対米農産物交渉激化
半世紀前の1975年には農政審が10年後の自給率75%を目指す。それから50年がたち現在の自給率は38%とほぼ半減。先進国最低水準にまで農業が衰退している。
さらに追い打ちをかけたのが、40年前、1985年9月22日のG5蔵相会合による「プラザ合意」。西側先進国が国際協調でドル高を是正しようというものだ。日本にとっては輸入を拡大する円高への転換を意味する。タフ・ネゴシエーターといわれ日本の農産物自由化に剛腕を振るったヤイター米通商代表は、残存輸入制限品目の市場開放を目指す。のちにガットパネル裁定に持ち込まれ自由化を求められるクロ判定などとなる、いわゆる「13品目問題」の発端だ。
そして、30年前の1995年には世界自由貿易体制の一層の強化を進めるため、ガットから衣替えしたWTOが発足。知財権など新たな経済項目の国際ルール化にも着手していく。
10年前の「安倍一強」と農協攻撃
忘れてはならないのは、10年前、2015年前後の「安倍一強政治」による農協攻撃だ。
安倍政権(当時)が成長戦略の目玉としたTPP。だが、この協定は原則ゼロ関税を求められ、国内農業は農業大国からの輸入攻勢にさらされる。交渉の結果、米麦、乳製品、砂糖など重要品目の関税はある程度維持されたが、輸入拡大は避けられない状態となった。そして、TPP交渉反対の最前線に立った全中に、政権の攻撃の的がしぼられた。
この農協攻撃の延長線上に全農攻撃、生乳一元集荷を担保する現行指定団体制度廃止による改正畜安法制定も位置づく。
2025シンTPP(トランプ・プーチン・北京)トリオ
そして今年、2025年。まずは1月発足の第2次トランプ政権の影響。キーワードはディール(取引)だ。日米貿易協定の見直しや米国産穀物や牛肉の購入拡大などを要求する可能性もあり要注意だ。
さらには新しいTPP、「シンTPP」を思う。トランプ、プーチン、北京(習近平)の頭文字をとった。いずれにしても今年は、「シンTPP」の指導者率いる米ロ中との安全保障、そして食料安全保障の駆け引きが激しさを増すのは間違いない。


(次回「透視眼」は2月号。テーマは「令和の米騒動」と酪農有事)