ふくおか県酪農業協同組合

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畜安法改正へ簗農相に期待 夏場牛乳不振で在庫増も
第2次高市改造内閣で簗和生氏が新農相に就いた。畜酪行政にも精通しているだけに、関係者の期待も高い。一方で酪農・乳業界は異変に見舞われている。最需要期の夏場に牛乳消費が低迷し、生乳需給緩和、脱脂粉乳在庫増が懸念される事態だ。
写真=畜酪の中心を担った簗氏(右)と長井氏(正面左から3人目)がそれぞれ新農相と新事務次官となった(2025年12月末の畜酪政策決着の自民党会議で)
農水省新布陣はコメ、畜酪シフト
まず10月5日から始まる臨時国会とも絡め、農水省の新布陣に触れよう。
高市政権が発足から1年を迎える中、内閣改造で簗氏は新農相に就いた。これと、政務3役、それに8月6日発令の農水省幹部人事で、農水省の新たな執行体制が整った。

一言でいえば、コメ・水田シフトだが、これに年明けの通常国会にも提出する畜安法改正も踏まえ畜酪対策重視の側面もある。いわば「コメ、畜酪シフト」とも言えよう。
・簗氏「突破力」と畜安法改正へ先導
簗農相は高市首相との関係の近さ、特に保守色の強い思想信条で「やなちゃん」と親しまれている。歯に衣を着せぬ舌鋒でも知られる。

自民党農林部会長や党畜産・酪農対策委員長を務めた。7月15日の自民畜酪委では生乳需給正常化への提言をまとめ、畜安法規律強化、加工原料乳補給金を需給調整とセットとしたクロス・コンプライアンスに加える畜安法改正も求めた。

生乳流通自由化を促す現行の改正畜安法は2015年前後の「安倍官邸農政」の一連の農政改革、特に農協改革の中で具体化した。指定生乳生産者団体の生乳共販率が約97%と高いことを問題視して、農協共販の弱体化も狙ったものだ。規制緩和で自由化を進め酪農家の出荷先の選択肢を増やす。その結果、北海道を中心に自主流通の非系統販売がシェアを伸ばす一方で、指定団体の共販率は下がり続け9割ラインに近づいている。

そこで何が起こったのか。生乳需給混乱だ。非系統は基本的に飲用向け販売が大半で、ホクレンなど系統が生乳需給リスクを背負うことになった。生乳流通の基本である一元集荷・多元販売の根幹が揺らいでいるのである。

簗氏の生乳需給正常化の提案は、この欠陥法である「改正畜安法」を見直し、需給調整の機能を強化しようとの試みだ。10年前の「官邸農政」の初めての「具体的見直し」としても評価できる。その簗氏が農相になったことは、生産者サイドに立った農政展開が進むものと期待できる。ただ、簗氏は旧安倍派の裏金関係議員の一人で、国会で厳しい野党の追及も考えられるのは、農政推進上の課題だ。
・農水副大臣に農協代表の藤木氏
次に政務3役。副大臣には、熊本のJA組合長を務め全国農政連推薦の参議院議員で全国比例2期目の藤木真也氏が就いた。以前は農水政務官を務め、政治家として農林議員のステップを着実に上がっている。

自身も肉牛農家であり、農林水産行政、特に畜酪に明るい。自民党農林関係会議でも常に生産現場目線で発言を続け、農水官僚にも問題点を指摘するなど、農業者寄りの立場を貫いてきた。
・事務次官、畜産局長、牛乳乳製品課長の「横顔」
事務次官、畜産局長、牛乳乳製品課長も一新した。

農水次官には前畜産局長の長井俊彦氏。東大経済学部卒、長野県出身で神農佳人JA全中会長・中央酪農会議会長と同じ。次官は前任の渡辺毅氏と2代続き畜産トップが就いた形だ。渡辺氏は生産局畜産部長を経験した。

江藤拓農相時の官房長を務め、備蓄米放出などコメ需給対策に奔走したが、次の小泉進次郎農相の時に官房長を外れ局長に格下げとなった。小泉氏から抜本的な米改革を進めない「守旧派」と見られたとされる。ところが今回は事務次官に抜擢、いわゆる“復活人事”だ。官房長から局長に落ち、そこから事務次官に昇格したのは、農水省では初のケースと見られる。酪農は素人だが、畜産局長時代に改正畜安法の規律強化、脱粉過剰是正などにも対応し、酪農の課題解決に尽力した。

畜産局長には前林野庁次長の谷村栄二氏。東大経済学部卒。宮崎出身で自民農林幹部、元農相の江藤拓氏と同郷だ。かつて食肉鶏卵課長、畜産企画課長などを経験し、畜産局の中でも食肉行政に明るい。

牛乳乳製品課長は蓼沼宏晃氏。簗農相と同郷の栃木県出身だ。2025年に小泉農相の秘書官を務め、「平成のコメ騒動」のど真ん中に身を置いた。

蓼沼は「たでぬま」と読み、珍しい苗字だ。2年間と異例の長さとなった前任の須永新平氏と同じ早大政経学部出身。かつて畜産局では飼料課流通飼料対策室長を経験している。牛乳乳製品課長は、日本を代表する食品関連企業である大手乳業との付き合い、政治力を持つ農業団体との政治的折衝や需給見通しの難しさ。さらに、国際交渉など能力が多岐にわたり問われるだけに、タフネゴシエーターの「腕力」も必要とされ事務次官候補の登竜門の一つとされる。牛乳乳製品課長は通常、東大法学部か経済学部卒のキャリア官僚が多かった。今回は早大が2代続き、官僚の中でも早慶を筆頭に有力私大の存在感が高まっている表れとも指摘されている。
生乳夏異変、飲用不振で大量余乳
こうした農水省の新執行部体制の中で、酪農では深刻な事態が進んでいる。一層の需給緩和だ。

中央酪農会議は9月15日に8月用途別販売乳量をまとめた。11か月ぶりの増産に転じた。生乳需給は猛暑となる8月に需給ひっ迫となるが、今年は飲用牛乳の需要が伸びず、首都圏でも加工に回す余乳処理など異常事態が浮き彫りとなった。
・関東の生産102・7%の衝撃
乳牛は暑さに弱く、飼料の食い込みが悪くなるなどで通常は夏場に生産性が落ちる。ところが今夏は、異変が起きている。指定団体の別に8月の生乳生産量を見ると、前年同期比で北海道100・6%、関東102・7%、東海103・6%と、増産になったブロックが出た。

まずは、全国生乳の6割近くを占める北海道の動き。2歳以上の搾乳牛が減少に転じている影響で減産を見込んでいるが、8月時点でも同100・6%と増産基調が続いている。乳価が堅調なことから、コスト増を補うため個体当たり乳量アップへの酪農家の努力が増産となって現れていると見られる。道内の粗飼料は、一番牧草の出来も良く、デントコーンも順調で乳量を底上げする。

一方で、驚きの数字と受け止められているのは関東の同102・7%の数字だ。関東生乳販連の集乳範囲は山梨、静岡まで含む9都県と広範囲で、首都圏の需要に応じる。猛暑の影響で夏場の供給不足を北海道からの生乳や産地パック牛乳で賄ってきた。だが今夏は一変、8月の生乳生産量は3%近い増産となった。

内訳では茨城が同108・3%など5都県は増産となった。大量生産するメガファームの増頭などで数字は上下するが、最夏8月のこれだけの増産は今年の生乳需給異変の象徴的な出来事だ。
・熊本、「共助」で災害影響軽減
7月末から8月は災害の影響が注目された。特に酪農主産地の熊本と千葉の動向がどうなるか。

結果的に、大地震に見舞われた西日本最大の酪農地帯・熊本は同102・0%、千葉は106・1%と増産して、指定団体の広域需給調整ネットワークで生乳処理ができた。熊本は生乳廃棄を回避。千葉は記録的豪雨に伴う通行止め、牧草地への泥水の流入などで被害が一部あったものの、軽微で済んだ。

改正畜安法に伴う生乳流通自由化で、系統から離れ自主流通に転じれば生乳の売り先、処理などに大きな支障が出たのは間違いない。最悪の場合、大量廃棄となり経営に大きな打撃を受けたはずだ。今回の熊本、千葉の九州、首都圏の酪農主産地を襲った災害で、指定団体の「公助」の力が、持続的な酪農を担保した。
・11月ぶり増産も「牛乳が売れない」
11月ぶりの増産の一方で、今夏の生乳異変の象徴は「牛乳が売れない」ことだ。首都圏をはじめ都府県での増産と合わせ、需給緩和は深刻さを増す。指定団体は「飲用牛乳が売れない」と懸念が広がる。

8月の用途別で飲用牛乳等販売は、全国で同98・4%と前年割れが続く。7月に6%マイナスとなり、業界に衝撃が走ったが、最需要期になっても消費低迷は変わらない。

最新の飲用牛乳需要はどうか。Jミルクまとめの9月初め需給動向を見ると、牛乳類4品目の販売個数は前年同期比96・9%と6週連続で前年割れ。減少幅が前週から1・1ポイント拡大した。牛乳単体も3週間ぶりにマイナスとなった。Jミルク需給動向は、指定団体経由ばかりでなく、非系統扱い牛乳も含めた全体の販売を示す。

系統、非系統の牛乳販売が低迷する中でスーパーでの週末の値引きセールも広がっているとの見方も強い。Jミルク需給動向では1リットル当たり牛乳単価は233・5円と前週を0・2円とわずかだが下がった。
・系統外が飲用需要を「侵食」
飲用牛乳の需要低迷は、改正畜安法の規律強化問題にも影響しそうだ。

系統外の販売攻勢がホクレンの生乳道外移出量を「侵食」しているほか、系統外の自主流通グループの販売方式は飲用乳主体の季節別需給に応じない一定量を契約するため、安売りの原因となりやすい。結果的に、非系統扱いの牛乳の方が酪農家の再生産コスト重視の系統の牛乳と価格競争で有利となり、販売に苦戦するケースも目立つも多いと見られる。

ホクレンの生乳道外移出は4月以降前年割れが続く。7月は前年同期比で10%減となった。北海道産地パック牛乳も7月に同5・6%減で3万トンの大台割れ。8月も引き合いが弱かった。一部の大手メーカーの市乳工場閉鎖で北海道の産地パック牛乳の需要が一時強まったが、飲用牛乳全体の需要不振が、産地パックにも影響を及ぼしている。
・生乳需給見通しに影響か
用途別販売の「夏異変」は今後の需給の修正にも結び付く。

まず生産面。北海道は搾乳牛の減少から年間では減産を見込むが、個体乳量増との兼ね合わせで上方修正する可能性もある。次に需要面。特に問題となるのは脱脂粉乳在庫の積み増し。8月用途別販売で、脱粉削減に直結するヨーグルト需要の発酵乳販売は同102・8%と検討している。

一方で、飲用不振から乳製品仕向けの加工に回る割合も異常に高まっている。北海道の今後の推移にもよるが、8月の関東の加工(脱粉・バター)は同126・6%と高い数字を示した。それだけ保存の効く加工に回す余乳処理をしたことを裏付ける。


(次回「透視眼」は12月号)